腎性副甲状腺機能亢進症(Secondary Hyperparathyroidism)について
腎性副甲状腺機能亢進症とは
 慢性腎不全のため透析を受けている患者さんで、食事療法・内科的治療によってもカルシウム・リンのコントロールが良くない場合に生じやすい病気です。一般的に透析期間が長くなるにつれては発症頻度が高くなります。腎機能が低下すると血液中のリン濃度の上昇やカルシウム濃度の低下、ビタミンDの活性化障害などが生じ、それらによって副甲状腺が刺激されて副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態が慢性的に続き、それに伴い副甲状腺の腫大が生じます。(この状態を腎性副甲状腺機能亢進症、もしくは二次性副甲状腺機能亢進症といいます。)この過剰に分泌された副甲状腺ホルモンは骨に作用してカルシウムとリンを骨から必要以上に溶かし出し、これらの血液中の濃度を上昇させます。透析患者さんでは腎臓の機能は廃絶しているので、腎からのカルシウム、リンの排泄機能はほぼなく、透析もしくは食事療法により調整されていますが、副甲状腺ホルモンの過剰分泌は血中のカルシウム・リン濃度を過剰に上昇させるのと骨密度を低下させるという2つの点で望ましいことではありません。ある程度まではカルシウム、リン、副甲状腺ホルモンの間に調整機構が残っているので血液中カルシウム、リン濃度は基準値からやや高値程度で内科的にコントロール可能ですが、病態が進みコントロールが困難となると、腎不全による骨の病気(腎性骨異栄養症といわれているもので、線維性骨炎・骨軟化症・骨粗鬆症などがあります。最近はCKD-MBD:Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder、慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常と呼ばれています。)が進行していき骨・関節痛や骨折を起こしやすくなります。またそれだけでなく、血液中のカルシウムやリンが高くなることにより、血管にそれらが沈着し(異所性石灰化といいます)動脈のしなやかさが失われ(動脈硬化)、心臓や血管系の重篤な合併症(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など)を引き起こします。合併症が生じると日常生活に様々な支障をきたし、透析患者さんの寿命を短くする要因となります。

病気を治すには
 腎性副甲状腺機能亢進症に対する治療薬として、経口および静脈注射用の活性型ビタミンD製剤、さまざまな経口リン吸着剤、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する薬剤などが開発されており、近年の内科的治療の進歩は目覚ましいものがあります。特に副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する薬剤はまず経口の薬剤(シナカルセト、製品名レグパラ)が2008年に発売され、その劇的な効果によりこの10年は腎性副甲状腺機能亢進症の手術は激減しています。しかし、シナカルセトには吐き気などの消化器症状の副作用があり、内服の継続が困難な患者さんが一定数おります。そのような患者さんでは下に示す手術適応を満たしていれば手術療法が望ましいと思われます。また、この薬剤を十分量投与してもコントロールできないような腎性副甲状腺機能亢進症もよい手術適応です。しかし、ごく最近(2017年2月)透析中に注射するタイプの副甲状腺ホルモン分泌抑制薬(エセルカルセチド、製品名パーサビブ)が発売されました。この薬剤により今後手術適応となるような患者さんはますます減少していくかもしれません。我々もこの薬剤の今後の成績に注目しています。手術以外には、超音波下でおこなうPEIT(経皮的エタノール局所注入療法)という方法もありますが、治療効果の不確実性などから当院では初回治療としては選択しておりません。全国的にもあまり行われていないようです。

どんな患者さんが手術を受けた方が良いか
  • 副甲状腺ホルモンが異常に高い場合:副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム、リンと関連していますので、両者の検査結果をみて判断します。カルシウム、リンの値にもよりますが、副甲状腺ホルモン分泌抑制薬を投与してもintact-PTHが300~500pg⁄ml未満にコントロールできない場合などは手術を考慮してよいと思います。
  • 明らかに副甲状腺が腫れている場合:頸部に腫れた副甲状腺があれば超音波で診断できます。副甲状腺は、頸部だけでなくまれに胸部にある場合もありますが、その場合はシンチグラフィー検査やCT検査で診断します。超音波やCTで最大径1cm以上の腫大副甲状腺が同定できる場合はよい手術適応です。逆に副甲状腺ホルモンが高くても画像検査で判然としない場合は、以下の臨床症状も参考に手術適応を決定します。
  • 画像(骨シンチ、骨レントゲン、骨密度測定)や骨代謝マーカーで線維性骨炎・骨回転(カルシウムの取込と溶出)の亢進がみられる場合。特に骨密度の低下が著しい場合。
  • その他血液中のカルシウムやリンが高く、内科的治療ではコントロールできない場合( 副甲状腺ホルモン分泌抑制薬の投与が副作用のため困難な場合も含む)、骨関節痛、かゆみ、いらいら感、筋力低下などの自覚症状がある場合。
などが手術の対象となります。

どんな手術を行うか
 腎性副甲状腺機能亢進症の手術は、すべての腫大した副甲状腺(通常は4個ですが、 それ以上や以下の場合もあります)をすべて摘出し、そのうちの一部を非シャント側の前腕部に移植します。
 手術は全身麻酔で、1時間から1時間半程度で終了します。手術の翌日に透析をうけていただきます。手術翌日から歩行・食事ができ、術後約5日で退院です。当院には透析設備がありませんので、近隣のピーエスクリニック(福岡市博多区店屋町6-18)にて入院中の血液透析をしていただいおります。透析スケジュールの都合もありますので、腎性副甲状腺機能亢進症の手術は原則火曜入院、木曜手術で施行しています。

手術後の管理
 手術が成功すると血液中のカルシウムが低くなるので、カルシウムや活性型ビタミンD製剤を飲まなければなりません。これは主として以下の二つの理由によるものです。
  • 手術前は副甲状腺ホルモンがどんどん作られており、このホルモンが骨から血液中にカルシウムを溶出していましたが、術後は反対にカルシウムが骨に取り込まれるので、血液中のカルシウムが低くなる。
  • 副甲状腺ホルモンをどんどん出していた病気の副甲状腺を取り除いて移植しても、術後すぐには移植した副甲状腺は機能しない。
 手術後にカルシウムや活性型ビタミンD製剤を飲まなくてはいけませんが、それは手術の合併症ではありません。むしろこの時期はカルシウムやリンを積極的に補充することで骨密度を上昇させる期間となります(術前は透析患者さんは食事中のリン摂取を制限していましたが、術後はこの制限を緩めることになります)。この期間は半年から1年ほど続きますので、かかりつけの透析施設で内服薬の調整をしていただくことになります。術後1年で骨密度を測定すると見違えるほど改善していることがほとんどです。

手術に関する合併症
 重要な合併症としては、反回神経麻痺による嗄声(しわがれ声)と術後出血があります。反回神経は副甲状腺の近くを通るため、腫れた副甲状腺を摘出する際に神経付近を操作することで反回神経麻痺が生じる可能性があります。反回神経麻痺の頻度は数%程度で、もし生じたとしても、神経が温存されていれば3ヵ月程度で回復することがほとんどです。 もう1つの合併症の術後出血ですが、透析患者さんは透析の際に血を固まりにくくする薬剤を使用していたり、血管自体が全体に弱かったりするので、術中の止血処置には細心の注意を払っています。そのためもあってか腎性副甲状腺機能亢進症での術後出血の経験は当院では今のところありませんが、母数がさほど多くないこともありその頻度は正確なことは言えません。参考までに当院での甲状腺・副甲状腺手術全体での術後出血の頻度は0.9%程度です。

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