甲状腺良性腫瘍

はじめに
 甲状腺の腫瘍(しこり)の大部分は良性腫瘍です。最近では、超音波を中心とした画像診断と細胞検査よりかなり正確に良性か悪性がわかるようになりました。しかし、濾胞癌はもちろん、乳頭癌(濾胞癌と乳頭癌については、甲状腺癌の分化癌を参照ください)においても診断が難しい場合があります。甲状腺の腫瘍に詳しい専門医に診断を受け、手術が必要であれば内分泌外科医に相談するのがよいと思います。

良性腫瘍の分類
甲状腺の良性腫瘍には大別して濾胞腺腫と腺腫様甲状腺腫とがあります。

濾胞腺腫は明瞭な被膜(腫瘍を囲むくっきりした膜)に包まれ、周囲の甲状腺を押しひろげるように大きくなった腫瘍で多くは単発(ひとつ)です。
濾胞性腫瘍(濾胞腺腫と濾胞癌の総称:甲状腺癌の項を参照してください)は、
【1】悪性腫瘍の可能性があるもの 
【2】機能性結節(甲状腺ホルモンを自動的につくるもの:甲状腺機能亢進症をきたす) 
【3】圧迫症状や美容上の問題があるもの
について手術をしたほうが良いと考えます。

腺腫様甲状腺腫は真の腫瘍ではなく、周囲にはっきりした膜をもたないしこりが多発して甲状腺全体が腫大する病気です。
腺腫様甲状腺腫の手術適応についは 
【1】癌を合併しているとき
【2】機能性結節(甲状腺ホルモンを過剰に産生する)となり甲状腺機能亢進をきたしたとき
【3】縦郭甲状腺腫(胸のなかまで進展する)をきたしたとき
【4】気管や食道などの周囲組織への圧迫症状のあるとき
【5】甲状腺腫が目立ち美容的な問題がある場合
などです。小さな結節(しこり)がたくさんあっても自覚症がなければ経過観察します。

甲状腺良性腫瘍の治療
 手術を受けたほうが良い患者さんでは、病状に応じて切除する範囲を決めなければなりません。濾胞性腫瘍の場合、濾胞癌の可能性がありますので、基本的には葉切除(片方の甲状腺を切除)を行ないます。腺腫様甲状腺腫の切除範囲は、病態(基本的には甲状腺全体にしこりを生じる種を有する病気)だけを考えると甲状腺を全部摘出することになります。しかし、年齢や手術適応になった理由などにより、部分切除から全摘出術まで患者さんに応じて選択すべきではないかと思います。

 手術以外には、甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法(TSHは下垂体から出されるホルモンで甲状腺ホルモンをもっとつくりなさいという指令であり、これが抑制(低く)されると腫瘍は小さくなりやすい)や嚢包(液のたまる腫瘍)に対して液を抜いた後にエタノール注入療法(壁の細胞をエタノールによって変性させて液がたまりにくくする治療)などがありますが, 効果が確実でないのが欠点です。最近では液のたまりではない腫瘍に対してもエタノール注入療法が試みられる場合もあるようですが、長期の成績が得られていないので慎重になる必要があります。甲状腺ホルモン療法においては、甲状腺中毒症状(内服する甲状腺ホルモンが多いことによる機能亢進症の副作用)が出ないように維持しなければなりませんし、長期間のTSH抑制療法は骨粗鬆症を起こしたり不整脈を誘発する可能性があるので注意が必要です。